そもそも木剣体操とは?

その疑問への回答として、木剣体操エクササイズ®実践者、鈴木亨氏(木剣体操エクササイズ®教士)の寄稿を紹介します。

氏は木剣体操エクササイズ®の礎となる木剣体操・武術体操の復元者であり、それを現代において、現役居合道教士として居合道での後進の指導にも活用している木剣体操実践者です。

この文章を読んで、氏の木剣体操に対する造詣と熱い想いが少しでも皆さんに伝わることを願っています。


木剣体操の誕生と復元について

                         上山市剣道連盟居合道部長

                                 鈴木 亨

 

目次

時代背景

伝統回帰の流れ

木剣体操法

武術体操法

木剣体操等の復元

木剣体操の特徴と効果(所感)

留意事項(所感)

居合道との関連(所感)

時代背景

明治時代に、武道を学校教育の正課にしようという様々な民間の動きが起こった。学校教育の正課となるためには、非力な小学生にも安全かつ容易に習得できる内容が要求され、その中で行われたのが武道の体操化である。

  明治11年に設置された体操伝習所によって国の学校教育の方針が定められが、当時、学校の体育授業として行われていたのは主に海外から導入した洋式体操や兵式体操であった。心身の調和や発育よりも、身体の技術、機械的な運動や規律教育に偏重する傾向にあった。

 

伝統回帰の流れ

  明治時代後半には、西欧化一辺倒から伝統文化を見直す気風が広がり、武術関係者は粘り強く剣術等の学校正課採用の運動を重ねた。大日本武徳会が明治28年に設立されたが、まだ、日が浅く、武道は学校の課外活動として取り組まれていた。

 

木剣体操法

  明治35年に、静岡県師範学校付属小学校の訓導である中島賢三が「木剣体操法」を考案し、同校の体育授業において大正9年まで指導した。中島は、生涯にわたる運動習慣の養成を提唱し、木剣体操の特徴として、自発活動の促進、身体全体の発育、用具や動作の簡易性、活気を養い短時間で効果のあることを挙げている。ただ、技術のみならず、子供達のすべての生活、習慣、態度、ひいては人間形成まで及ぶものが体操の最終目的であるとしている。

  木剣体操法は、身体各部の発育のために、左右対称の技や構え、前後の動きが多く、ほとんどは古流剣術から採り入れられている。打方と受方が組み行う攻防に加えて、終生取り組むべき一人稽古用の「要の技」などを含め、50本を超える技がある。

 

武術体操法

  明治30年に、教育者の小澤卯之助が考案し、「新式武術体操法」では、徒手による予備体操、棒体操、刀体操、槍体操が解説されている。そのいずれの技も古流武術の形を踏襲している。明治36年には、老若男女に適応する「薙刀体操法」も刊行している。

 

木剣体操等の復元

  東日本大震災により、東北全体が歴史的な痛手を受けた。自らが所属する上山市剣道連盟や東北芸術工科大学居合道部にも東北各地の出身者が多く、縁者を失ったり負傷した者があり気風が沈潜した。その中で、中島賢三が考案した「国民の気風に適し元気をさかんにしむべきもの」としての木剣体操等を発見し、古流剣術の面影を色濃く遺す小澤卯之助の武術体操も含め、仲間と共に復元した。

自らの父が生前「いつか居合をしたい」と語り、共に鞘付木刀を購入した経過もあることから、病床の父との約束を果たすべく数年を費やし再現に努めた。

  また、居合道を修業する際の間合や斬突のタイミングの把握、心身のバランスや集中力を高めるサブトレーニングとして採り入れることを想定し、復元と修練に取り組んだ。

 

木剣体操の特徴と効果(所感)   ~上山市剣道連盟居合道部での体験から

上山市剣道連盟居合道部における約5年間の実践と体験から、木剣体操の特徴と効果について、思いつくままに列挙してみる。

  場所や時間、天候を選ばず短時間で、前後左右、均等の全身運動ができ、老若男女がそれぞれの体力に応じて継続できる。

  動作が簡易で、準備するのは木刀一振のみである。

  日本刀に近い反りとバランスの木刀を使うので、日本刀を振る感覚を養うことができる。

  「エィ」「ヤッ」の掛声及び木刀を打ち合う音響により、気・剣・体の一致の修練につながり、ストレスの解消になる。

  自発性、集中力、気力、瞬発力、勇気を養うことができる。

  体幹の鍛錬、腹筋、背筋及び握力の強化につながる。

  木剣を振りかぶる運動で肩こりを予防し、姿勢を正すことができる。

  相手と真剣に向き合うことで、相互理解、思いやりの精神を養い、礼節が身につく。

  各流の古流剣術の形をそのまま組み入れていることから、古流剣術の基礎や独特の動きを体験でき、活きた歴史学習ができる。特に初心者は、古流剣術の形に興味を持つ者が多く、好奇心を持続しながら倦むことなく取り組める。 

  術技が明記されている一方、内容が細やかすぎず、それぞれ個性や自由度を保ちながら取り組むことができる。

  攻守演習では、相手と会話や打合せをしながら、和気藹々の雰囲気で楽しむことができる。

  家屋内での低い構えや座っての素振りも可能で、自習により忍耐力を鍛え、継続して体力増進ができる。

  体操終始の礼式等(抜剣、肩刀、改剣、休め)により集団性が養われ、規律意識が身につく。

  集中力や瞬発力、全身のバランス感覚を養い、他のスポーツや文化芸術活動などの補助トレーニングとしても有効である。

  剣道、居合道への入門前の体験活動として適している。

  護身術の身構え、心構えが身につき、自立心を養うことができる。

 

留意事項(所感)

  初心者でも、あえて日本刀を握る手の内を意識しなければならない。本人がマスターできるかどうかに関わらず、正しい手の内を意識して取り組むことが大切である。なぜならば、日本刀を握る手の内を意識しなければ、伝統的な木剣を使う意義が薄れ、他の器具を使う体操や踊りとの差別化が困難になるからである。武術体操法に手の内の詳細が記載されている。

 

居合道との関連(所感)

多種多様な攻防の中で、目付の大切さが体感できる。古流さながらの異形の構え、前後左右からの切り下ろし及び抜き付けを受け続ける中で「遠山の目付」を意識することができる。

 

身体各部への斬撃に対して、細かく受け方が示されていることから、実際、お互いに身体各部への切り下ろしや抜き付けを安全に試すことができ、斬撃ポイントの確認や間合感覚を磨くことができる。また、剣術の形を体験することで、居合道の特徴を再認識することができる。多様な古流の形を自ら体験するので、居合の諸流派との試合においても臆することがない。

剣道日本様のご厚意で、同誌2015年1月号の鈴木先生の木剣体操についての記事の掲載許可を頂きました。

文献として意義あるものと考え、文献のページに掲載いたします。

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参考文献へのリンク